登る人No.028 Linkup スライドショーレポート

登る人No.028 Linkup スライドショーレポート

Linkup?
去る10月19日、名古屋駅からほど近い会場にLinkupメンバ-3人が集まり、それぞれの活動を報告するトークイベントが開催された。
定員50名を超える参加者のほとんどが東海圏で登山やクライミングを楽しんでいるということもあり、三者三様の山との関わりを興味深そうに聞いている様子が印象的なイベントとなった。
今回は3人の話を、イベント開催のお手伝いをした身として、少し書き残したいと思う。
まず、Linkup(リンクアップ)とは何か?ということである。メンバーは全部で7人。2015年にカナダを活動の拠点にしている谷剛士と山田利行が立ち上げたチームで、カナダや日本の山のことや技術、知識、気になっていることなどの情報共有を目的に週に一度ブログを発表し、もうすぐ150回を迎えようとしている。また、英語圏の方たちにも日本の山の情報を伝えられたらと、英語に翻訳された投稿も月1回ほどのペースで行っている。
彼らの特徴は、メンバ-7人のジャンルがクライミング、山スキー、登山、マウンテンバイクと多種多様であることだ。山をフィールドとしているという共通点はジャンルを超えてもお互いに共感や発見があるという。
今回はその多彩なメンバーの中から山田利行、兼岩一毅、劔村裕規が名古屋に集まった。

カナダで山を学ぶ ~落ちこぼれて山スキー~
兼岩一毅は当時会社員として働いていた職場を離れ、ガイドになるための勉強をすることを目的として、2014年5月~12月までの7ヶ月間、ワーキングホリデー制度を利用してカナダに滞在していた。山が魅力的で、登山学校を利用することで短い期間で体系的に登山を学べること、パートナー探しに困ることがないことや日本には馴染みのない氷河技術を学ぶことができることを、カナダを選んだ理由としてあげている。彼の滞在期間はまさにそれらを満喫するように、春から夏にかけてハイキングガイド兼ドライバーとして働いた後、秋から冬にかけて登山学校で氷河技術と氷河でのスキー、クライミング(フリー、アルパイン、アイス)など幅広く学んだ。
帰国してからは、白馬で車中泊しながら、深夜にコンビニでバイトをして、昼間は自分の山行とアシスタントガイドをするというスキーバム生活をしていた。またその間に、不帰2峰の滑降や黒部横断などにも意欲的にトライしていた。
兼岩はその後再就職し、一年後には男児を授かるなど、仕事と育児に追われる限られた時間の中で、山スキーを自らの活動の中心とすることを選んだ。「山にいるときの自分はいいやつ」というあるクライマーの言葉を引用し、社会的な環境によって否定的な感情を持ったりすることから、山にいると解放されると話していた。また、自身が求めていることは「純粋な自己実現であって、その対象がたまたま山だっただけ」とも語った。カナダに滞在する目的だったガイドになるということを諦めたのは、そういった気づきの結果だったようだ(このことを副題で「落ちこぼれて」と表現している)。
山スキーの良さは、雪が降ってどこでも歩けるようになった山を、自分が安全だと思うラインで自由に登って滑ることができる原始性、誰も滑ったことの無いところを滑ることや、雪の状況などにより安全に滑ることができるかどうかわからないという冒険性や未知性、日本は雪が多いためスキーでの移動が合理的なことや、深雪を踏みしめて登り、短時間で滑り降りてくることの爽快さをあげている。
スライドの最後は彼の山スキーでのしくじり(失敗談)で締められた。雪庇と稜線の間に形成された隠れた亀裂に落ちたり、滑り方にこだわるあまり急斜面で転倒したり、雪崩に巻き込まれてスキー板を失くしたりといった場面が、動画を交えて紹介された。
「子供と低山に行くのも楽しく、家庭も大事」どういう風に両立させていくかが目下の課題だという。自分なりのこだわりを持ちながら、その実現に向けて取り組む姿が印象的だった。

カナダの自然で遊ぶ ~夢を叶えにカナダへそして今百姓見習い~
続いて劔村裕規が「リンクアップのメンバーの中でも、わりとゆるーい感じで遊んでる方なんで」と控えめで落ち着いた口調で話し始めた。
子供の頃から親に連れられて山によく登っていたが、自分で出かけるようになったのは大学生になってからだ。クライミング、登山から始まって、スキー、カヤックと様々な遊びを楽しんでいる。スキーに関しては、アルペンスキーから始まり、現在はかかとの解放され自由度が高く、機動力もあるテレマークスキーがメインになっている。カヤックは、仲間と黒部の上ノ廊下を船にザックの背中の部分をつけて背負って運び3泊4日の川下りに行くほどの打ち込みようだった。
カナダへは、海外に住んでみたいという憧れを叶えるために、結婚していたがサラリーマンを辞めてワーキングホリデーを利用して渡った。
最初語学学校へ入り、その後車を購入してカナダを東から西へと大手スーパーでの車中泊やキャンプをしながらロードトリップをした。その1ヶ月かけた旅の終着点はバンフ。バンフでは仕事をしながら週末には山に出かけるという生活を半年間送った。氷河をスキーで滑ったり、自宅からアプローチができるクライミングルートがある生活の中で、オススメのアクティビティとして犬ぞりや寒さを利用して実験してみたりという遊びを紹介するあたりが、「いろんな活動を複合的に遊ぶのがとても好き」と語る劔村を象徴しているようだった。
バンフを離れ2回目の車の旅ではバンクーバーからユーコン川に出かけ、妻と2人、二人乗りカヤックで320kmを下った。劔村は「カナダトータルとしてロッキーの厳しい自然もありますし、夏も冬も本当にたくさんアクティビティがあるんですけど、私としてはその夢を叶えるための旅として充実したカナダ生活を送れたと思っております」と話し、続けて日本での生業の話に移った。
それまでの多様な経験を踏まえて、遊びとそこでできる仕事を考えた末、一次産業に進むことを選んだ。林業から始まり、養豚など複合的な農業を目指すという目標に向かって様々な経験を積み、現在はぶどう農家として生計を立てるために、富山県の立山連峰が見える畑で苗木を育て3年後の収穫を目指している。「自然の力を借りながら自然に翻弄されながらやっていく仕事なんですけども、その中で、外遊びとのバランスを一番取れるところをこれから目指していこうとそういうふうに思っております」最後にスライドに映し出された劔村のぶどうの苗は一列に並んで天に向かってまっすぐと伸びていた。これからもマイペースで楽しみながら、長いスパンで物事を観察しながら生活を営んでいく様子を垣間見れたような気がした。

カナダの山へ登る ~ロッキーでのアルパインクライミング~
山田は、カナダに住んで5年目になる。今回の3人の中で一番先鋭的な登山に力を入れるアルパインクライマーだ。アルパインクライミングはクライミングの中でも冒険性の高い分野で「山で行うクライミング」であるがゆえにクライミング技術はもちろん、ロープワーク、気象や雪崩の知識、体力、根性、忍耐、それに加えて山での生活技術などを総合的に身につける必要があり、気の合うパートナーを探すことの困難さも相まって、志向する者が少ない分野となっている。そんなアルパインクライミングの魅力を「80%くらいは辛いことなんですけど、残りの20%はその80%を超えるくらい充実したものなので、僕はやってます」と山田は語った。
山田の主な活動拠点であるカナディアンロッキーは、岩塔や何百メートルもある岩壁や氷河があること、情報や人工物が少ないことがアルパインクライミングのフィールドとして魅力的だという。そんな環境の中での、山田の昨シーズンの報告は聞き応えのあるものだった。
秋にはフルムーンコーナーというルート(M6 WI4 R 400M)を初登し、冬にはマウント・テンプルのスフィンクスフェイス(M6 1000m)の冬季第2登を成し遂げた。(スケールの大きな壁を相手に辛いビバークやアクシデントを仲間と超えて達成された2つのクライミングの様子は「ROCK&SNOW 081」で素晴らしい写真とともに読むことができる)
続けて山田は、自分にとってのアルパインクライミングについての考えを話した。
意外に聞こえたのは、今登りたいところがあるからやるのではなく、5年後10年後を見据えて行動していくことが大切だと思っているという点だった。それは、何らかの理由があって自分のクライミングが中断してしまったとしても、こういう自分になりたいというものを絶えず持って、クライマーとして現在進行形の存在で居続けること、また少しづつ成長していけるクライマーであり続けようという意思の表れだった。
また、「冒険的創造的なものを追求すること、トレンドを知って自分の目標を見つけること」を一つの才能だといい「自分で素晴らしい課題を見つけて、それを自分で準備して仲間を集めて登頂する」という一連の過程ができるクライマーになりたいと語った。
その中で、生活との両立を考え、最善を尽くす。また家族やパートナーの心配に対して感謝しながら、説得しながら、罪悪感や後ろめたさを感じながらも登り続けたいとも語っていた。
「全部を含めて自分の生活に根付いた行為としたい」
最後に2000mの壁を持つマウントロブソンのエンペラーフェイスの写真を見せながら、「目標を絶えずモチベーションにしながら自分の活動を続けていきたいなと思っております」と締めくくった。

スライドショー終了後は居酒屋での二次会となり、こちらも山好きが40人近く集まり、大いに盛り上がった。こういった地元の山のコミュニティの良さを再確認できたのも、今回のイベント開催の意義だと強く感じた。
朝日陽子